山が待っている。

「流産」という山から、わが子を腕に抱いて下山できました。どんな山も無事に下山できるように。ひとつひとつをクリアする過程を書いていきます。

進行流産

進行流産、その時のことを覚えている限り書き残しておこうと思います。

同じようなつらい思いをされた方、これからの妊娠生活で不安になりたくない方・・・苦しい表現が続きます。

そういったものを読みたくない!という場合は、ここから先は進まないでくださいね。

 

 

 

 

 

23:00頃、夫が帰宅。

ドアを開ける音で気づいたけれど、起き上がれない。重い日の生理痛のような痛みがずっと続いている。ここまで痛いのはおかしい気がする、と感じつつも、先生からの「流産にはつながらない」という言葉だけを信じて耐えた。とはいっても、我慢できないほどの痛みというわけでもない。「流産の時は陣痛のように痛いらしい」という、ネットで調べた情報を頼りに、これは違うと信じるように丸まっていた。

夫がすぐ寝室に来てくれて、仕事の話を少し聞いたり、今日の診察について話したりする。

ただ、その間もおなかの痛みは続いていたし、出血の不安もあったから、それも伝えて結局リビングに移動して横になっていた。

夫は食事もそこそこに、横でお腹をさすりながら、私の体調を気遣ってくれた。

腹痛は変わらず、感覚では出血がますますひどくなっているように感じた。

 

24:20頃

腹痛は我慢できないほどの痛みではなかったので、耐えていたけれど、こわいのは出血だった。ただの出血なら、まだいい。この日は夕方から少しずつ小さな塊のある出血が続いていた。

そして、ナプキンだけでは心細いような気がしてトイレに行くと、これまでの小さな血の塊とは違う、細長いひものような数本の塊が出てきた。

これを見た時に、無意識の中で「もうだめだ」と心を決めた気もする。

 

この後すぐ、また横になっていたけれど、一瞬お腹の中でぶるぶるぶるっと震えるような感覚がした。「まずい!」と思ってトイレに駆け込む。このときは夫も一緒に来てくれて、泣きながらトイレで出血を受け入れた。体の中からいくつもぼたぼたぼたっと塊の落ちてくる音が聞こえた。

そして、するっと、大きな塊が体の外に出たのを感じたとき。

夫が大きな声で泣いた。

「赤ちゃんが・・・!出た・・・」

そんなことを言いながら、しゃくりあげていたと思う。

夫が泣く姿を見て、私の涙はひっこんだ。夫を抱きしめながら、背中をさすった。

「見えた?赤ちゃんだった?人の形してた?」

すべての質問に夫は泣きながらうなずいた。

私はそれを受け止めながら、ずっと背中をさすった。

 

そこからは私は涙を流さなかった。ただ、出血が止まらず量は増えるばかり。便器に座っていることもできなくて、そのままトイレの床に倒れこんだ。夫にトイレットペーパーでは間に合わないのでタオルを持ってきてもらう。でも、タオルもすぐに真っ赤になる。そのうちに寒くなってきて、意識が朦朧としてきた。

このままタオルを当てていても、出血に間に合わない。何より寒い。

それを夫に伝えると、「お風呂にいこう。湯船でそのままにしていていいよ。」と、お風呂まで、タオルを敷き詰めて道を作ってくれた。

這うようにして湯船に入る。暖かいシャワーを浴びながら、紫色になっている足の爪を見ていた。「大量に出血して貧血なんだな」と、やけに冷静な自分がいた。

少し体が温まったところで、すぐにまた気分が悪くなる。貧血で吐きそうだ。お風呂の床に横になるが、冷たかった。夫がすぐにバスタオルを敷いてくれて落ち着くのを待った。

 

1:30

「病院に電話しよう。救急車を呼ぼう。起き上がれないんだから担架のほうがいい。」少し落ち着いたところで夫が提案してくれた。

夫が電話をすると言ってくれたけれど、「なるべく本人が電話して状況を伝えたほうがよい」というのを思い出して、私が電話するから、と伝える。それから、救急車も「むやみに呼ぶ人がいて、本当に必要な人のところへ救急車が間に合わない」というニュースが頭をよぎった。私よりもっと必要な人がいるかもしれない。私はタクシーで大丈夫だ。

こんなときにやけに冷静な自分がいた。

病院に電話したら、「確定ですか?出てきたのを確認した?」と聞かれた。私は見ていないけれど、夫が見たので「はい」と答える。とにかく出血がタオルでは間に合わないくらいひどい、ということと、状況を伝えた。「経産婦ですか?」と聞かれ、そんなに大事なことなのかな?と思いながら、「初めてです」と答える。「30分後には行けると思います」と伝えて電話を切った。

でも結局、すぐには動けなかったので、病院についたのは1時間後くらいだったのではないかと思う。

 

うちは車がないので、夫にタクシーを呼んでもらった。実家に連絡することも一瞬考えたけれど、夜中だし、身内でないほうが事故の心配もないと思った。

それから、まだトイレにいる赤ちゃんをなんとか取り出してほしいと夫に頼んだ。夫は大きな声で泣きながら、赤ちゃんをお玉ですくってお椀に入れてくれた。

「まずい」と思ったときに、トイレットペーパーを水の溜まっているところに敷いたのがよかったのかもしれない。赤ちゃんは奥まで流れることなく、とどまっていてくれたみたい。

ナプキンをつけ、夫に持ってきてもらった汚れてもよいズボンの下にリラコ(ユニクロのステテコ)を履いて、さらに手ぬぐいをおしりのところにセットした。

荷物はすべて夫が用意してくれていて、リュックの中にタオル数枚とウェットティッシュ、ナプキンと財布などが入っていた。

 

タクシーが来るまでの間、お椀に入った赤ちゃんに挨拶をした。

スマホで1枚だけ写真を撮って、あとはじっくり見つめた。

手も足も指が5本ずつきれいにある。

耳もできている。

口に手を当てて、ゆびをしゃぶるような姿。

かわいいなぁ。

私たちの赤ちゃんだ。

きれいに出てきてくれて、ありがとう。

不思議と涙は流れず、ただただ赤ちゃんを見つめていた。

 

すぐにタクシーが到着し、赤ちゃんの入ったお椀をディズニーランドの袋に入れて、家を出た。

かわいらしい、楽しい袋に入れてあげたいと思って、とっさに選んだ袋だった。